◆Objection<2>  なんで、3ケタ毎にカンマを入れるの? 【20】

 創刊号で「ディファクトスタンダードの不条理」というテーマで、キーボー ドの問題を取り上げたら、シリーズにするとおもしろそうだね、という意見を いただいた。うん、確かにそうである。でも、世の中、不条理なことはたくさ んあっても、ディファクトスタンダードの〜となると、そんなに簡単にはリス トアップはできそうもない。

 すぐ思い浮かぶのが、ビデオの規格でVHS対ベータである。いや、これは 不条理にはならないかもしれないが、初めてビデオデッキを買ったとき、「こ れからはゼッタイ軽薄短小の時代だ! 6時間も録れれば8時間である必要は ない!」とベータを選択した私にとっては、不条理である。100巻以上ベー タのテープがいまだ捨てられず持っているのに、ベータのデッキは満足には動 かなくなっている。  後はなんだろう、マイクロソフトのWINDOWS あたりだろうか? しかし、こ の問題は、世間にはゴマンと論客がいて、私が語るには荷が勝ち過ぎている。 という訳で、シリーズにはならず、この程度書いたら終わりになってしまう。

 しかし、もうひとつだけあったあった。言わずにいられない腹立たしいこと が。これは、前回の親指シフトキーボードというマイナリティな話ではなく、 ほとんどすべての人にかかわっている重要な問題である。それは、金額をはじ め数字の表記をするときに、必ず 1,300,000円といった具合に、3ケタ毎にカ ンマを入れることだ。これに違和感を感じている人は、きっと私だけではない はずだ。

 歴史的経緯はわからないが、たぶん英語文化圏の影響で、英語では、1,300, 000 円は、1million and 3thousand yenと表記する数の単位の3ケタ切りの関 係からそうなったのであろう。しかし、日本語では 130万円である。そして、 万の上は億であり、数の単位は4ケタ切りなのである。であるならば、1,300, 000 円は130,0000円と表記した方がずっと読みやすいではなかろうか?

 また、4ケタ切りと似た話だが、会社の予算決算などの数字も、千円を単位 として表現することが多いのも気にかかる。なぜ、万円を単位としないのか。 千円までの精度を必要とする理由・根拠があるならばいざ知らず、たぶんない はずだ。売上目標が5000万円ならば、5000と書けばいいではないか。それを千 円を単位として 50000、いや50,000などと書く。これも、3ケタ切りの呪縛の 影響は明らかである。全くもって解りにくい。

 4ケタ切りの問題は、私が疑問を感じるようになるずっと以前から、本多勝 一が、ある時期から、その著書のたぶんすべてに、凡例として触れていたこと を思い出した。本多勝一は、ラディカルな人であって(ちなみにラディカルと は過激というニュアンスより根源的というニュアンスで捉えた方が正しい)、 好き嫌いが分かれると思うが、私はむろん?好きである。

 その凡例の一部をを引用すると次の通り。

1.数字の表記は、四桁法(日本式)とし、三桁法(西欧式)を排します。 (理由は「数字表記に関する植民地的愚挙」『アメリカ合州国』収録) ※初出は『家庭画報』1973年11月号

2.人名はすべてその人物が属する国の表記法のそのままの順序で使います。 (理由は「『氏名』と『名氏』」参照『殺される側の論理』収録)

3.The United States of Americaは「アメリカ合州国」と訳し「合衆国」と は書きません。(理由は『アメリカ合州国』のあとがき参照)

4.ローマ字は日本式(いわゆる訓令式)とし、ヘボン式を排します。

といった具合である。

 彼の著作をひもとくと、「数字表記に関する植民地的愚挙」のほかにも「四 ケタで点を打つ運動」という記事を朝日新聞に寄せている(1979年9月4日夕刊 )。その中で、彼の提唱ではなく、すでに学校の先生やジャーナリストが中心 とした、4ケタ切りの実行の輪をひろげる運動を始める動きを紹介している。 運動は事務局を置かず、仮の名を「万進会」として趣旨への賛同者はそのまま 会員を自称することができ、実践してもらう方針とのこと。政治における勝手 連みたいな発想である。残念ながら、今では、そんな話も運動もとんと聞いた ことはないが、本多勝一自身は、4ケタ切りに限らず、文章表現に関する不条 理なことをすべて排し、自らの著作で主張し実践しているのである。

 私は、これまで、そうはいいながらも、慣例に合わせてきてしまったが、や はり、こうしたことは、自ら実践し声を上げるべきなのだ、と改めて思った次 第である。みなさんも、「万進会」の会員になりませんか?